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【会社設立時】役員報酬はいくらに設定すべきか?

  • 執筆者の写真: 正俊 矢尾
    正俊 矢尾
  • 5月1日
  • 読了時間: 4分

 会社を設立したばかりの経営者が直面する悩みのひとつが「役員報酬(役員給与)をいくらに設定すべきか?」という問題です。生活費を考慮するべきか、会社の業績とのバランスを見るべきか、あるいは節税を意識して法人に利益を残したほうがいいのか——さまざまな視点が必要になります。


 このコラムでは、役員報酬の金額の決め方と、税務上の取扱、手続の注意点や期限について、実務的に整理して解説します。





1. 役員報酬の金額をどう決めるか?2つの考え方


パターン①:生活費ベースで考える


  • 自分や家族の生活費、住宅ローン、教育費などから「最低限必要な金額」を逆算して設定する方法。

  • 特に創業初期は会社の利益が少なくても、一定額を自分に払う必要がある場合に選ばれる。

例:生活費に毎月30万円必要 → 年間役員報酬360万円で設定

パターン②:会社の業績ベースで考える


  • 会社の利益やキャッシュフロー、納税負担を考慮して、会社に残すべき利益と自分が受け取る報酬のバランスで決める方法。

  • 特に利益の出始めた段階や、税務・資金繰りの観点から最適化を図りたいときに選ばれる。

例:利益600万円 →突発的な支出や税金を考慮して役員報酬は月25万円までに抑える


2. 法人に利益を残す vs 役員報酬として取る:どちらが得?


法人に利益を残すと:


  • 中小企業では法人税率は利益が年800万円以下部分だと15%と比較的低い

  • 税金を控除した利益の額が資金繰りに余裕をもたらし、将来の投資や借入の際の信用向上にもつながる

  • 一方、役員個人への収入がない/少なすぎると、生活費に困ることも



役員報酬として取ると:


  • 経費(損金)にできるため、法人税の節税効果がある

  • 一方で役員個人としては「給与所得」となるため所得税・住民税・社会保険料の負担が増える

  • 一定額以上については、所得税率の急上昇に注意

    ※ 900万円以上から税率が23%→33%となります。累進課税のため、901万の場合は1万円だけが33%対象という意味です。


→ 適度な役員報酬+利益留保のハイブリッド設計が現実的



3. 税務上の取り扱い:役員給与の種類と条件


まず、重要な点として、役員報酬は会社設立日より3ヶ月以内に決定しましょう。

役員報酬が経費として認められるためにはこの期限を遵守する必要があります。


種類

特徴

必要な手続き

定期同額給与

毎月一定額を支給。もっとも一般的

就任後3か月以内に金額を決定。原則として変更不可

事前確定届出給与

賞与を出す際に、あらかじめ支給時期・金額を税務署に届出

届出が必要(株主総会決議→税務署へ)

業績連動給与

上場企業などで利益連動の支給が可能

原則非上場会社は対象外(制度上利用不可)

→ 節税目的で役員報酬を柔軟に変動させることは利益操作につながるためできません。

 そのため、売上の先行きが不透明な場合は、定期同額給与をやや保守的に設定し、事前確定届け出給与を決算日の直近で設定していくことで調整を図ることが望ましいかと思います。


 また、業績の季節性がある程度読みやすい事業であれば、決算日は繁忙期の直前に持ってきた方が節税対策を講じやすいという意味では望ましいかと思います。理由は繁忙期が期初にあると、そこで多くの利益が発生することが見込まれますので、その利益を1年間かけてどうやって使っていくか考えることができるからです。

 


4. 役員報酬の決定と手続の期限:設立後の流れ


手続項目

対象

期限・目安

株主総会(報酬決定)

役員就任時・定時総会

設立から3か月以内に株主貴総会で報酬額を算定し、議事録を作成

定期同額給与の開始

全役員

設立から3か月以内(設立月を含めた期の3か月)までに金額を確定し支給開始

事前確定届出給与の届出

該当する役員賞与がある場合

設立から2か月以内

年金事務所(社保加入)

報酬のある役員

報酬支払開始から5日以内に「資格取得届」提出

税務署(給与支払事務所の届出)

役員給与がある場合

設立から1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」提出



5. まとめ:役員報酬は「生活 × 会社の体力 × 税務」のバランスで決める


  • 役員報酬は高すぎても税金・社保負担が重く、低すぎると生活が不安定になる

  • 「生活費から逆算」「会社の利益と照らして調整」の両視点で設計するのが現実的

  • 定期同額給与を基本に、売上や利益が読めない状況では、事前確定届出給与も組み合わせて報酬体系を設計(自分自身へのインセンティブとなる要因を作る)

  • 各種手続きは期限を守らないと、損金不算入や追徴課税のリスクもあるので要注意

  • 期首日より3ヶ月以内に役員報酬を決定することで経費(損金)として計上可能

  • 役員報酬が1円以上発生する場合は保険加入のため、設定から5日以内に年金事務所へ届出する必要あり(支給額次第では結果として社会保険に加入しなくてもよくなる可能性あり)


最初は顧問税理士とも相談しながら「無理なく」「損しない」報酬設計を行いましょう。

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