【開業前必読】スモールビジネスのための資金繰り計画ガイド
- 正俊 矢尾
- 4月30日
- 読了時間: 4分
更新日:5月1日
多くのスモールビジネス開業者が、収支計画には力を入れる一方で、資金繰り(キャッシュフロー)の重要性を見落としがちです。特に飲食店のように、開業時に多額の初期投資を要する業態では、「黒字なのに資金が足りない」という深刻な事態に陥ることがあります。
このコラムでは、収支計画で黒字が見込まれる飲食店モデル(月商90万円)を前提に、資金繰りの考え方と実務的な資金繰り計画の作り方を、事例を交えて具体的に解説します。

1. 資金繰り計画とは?なぜ収支計画と別に必要なのか
収支計画は「利益」を見るもの、資金繰り計画は「現金」を見るもの
収支計画では月次の売上・原価・経費を集計して、黒字・赤字を判断します。しかし実際の経営では、
設備投資で大きな支出がある
売上入金が月末締め・翌月払いになる
毎月の支払は前倒しで発生する
といった「タイミングのズレ」が頻繁に起こります。
このズレを無視していると、黒字のはずなのに現金が不足し、家賃や給与が払えない=「資金ショート」に陥ります。 だからこそ、「毎月いくら現金が入って、いくら出ていくか」を正確に予測する資金繰り計画が必要なのです。
2. 飲食店開業モデルにおける資金繰りの落とし穴
飲食店の開業初期にありがちなパターン
項目 | 内容 | 金額(目安) |
店舗改装費 | 内装・外装・看板など | 約300万円 |
厨房機器購入 | 冷蔵庫、オーブン、調理台など | 約200万円 |
保証金・敷金 | 家賃6か月分 | 約90万円(15万円 × 6) |
初期仕入・消耗品 | 食材・食器・備品など | 約30万円 |
開業準備費用 | 登記、チラシ、システム導入など | 約30万円 |
→ 合計:約650万円(すべて初月or開業前に支出)
毎月のキャッシュフロー(1か月目〜)
売上入金が末締め翌月末払い(カード決済中心)
食材仕入れ・家賃・給与は現金 or 月初に支払
→ 1か月目:売上ゼロ+支出だけで100万円前後のマイナス → 2か月目:ようやく売上が立つが、入金は翌月末。支出は続く
結果:黒字になるまでに「最低3か月分」の運転資金が必要
3. 資金繰り計画の立て方(実務編)
ステップ①:初期投資と初月支出をまとめる
店舗取得費用(保証金、仲介手数料)
設備投資(内装、厨房、POS)
開業準備費(販促、システム、ライセンス)
初期仕入・従業員研修費
初月の運転資金(家賃、人件費、仕入、光熱費)
→ 例:合計 700万円
ステップ②:3〜6か月分の固定費を「手元資金」として準備
月の固定費=約43万円(収支計画より)
最低3か月分=129万円、推奨は6か月分=258万円
ステップ③:月別キャッシュフロー表を作成
月 | 売上(入金) | 支出(仕入・人件費・家賃) | 投資支出 | 月末残高 |
---|---|---|---|---|
開業月 | 0円 | 100万円 | 600万円 | ▲700万円 |
1か月目 | 0円 | 50万円 | 0円 | ▲750万円 |
2か月目 | 0円(売上は出るが未入金) | 50万円 | 0円 | ▲800万円 |
3か月目 | 90万円 | 50万円 | 0円 | ▲760万円 |
4か月目 | 90万円 | 50万円 | 0円 | ▲720万円 |
→ このように、黒字化しても現金が足りない期間が発生するため、融資・補助金・自己資金での備えが不可欠
4. 資金繰り対策のヒント
① 創業融資を「運転資金込み」で申請する
日本政策金融公庫や制度融資を活用し、「設備投資+3か月分の運転資金」をセットで調達するのが基本です。
融資担当者には「初月は赤字見込」「3か月間キャッシュ赤字になる見込み」など、資金繰り表とセットで説明することで信頼度が上がります。
② 固定費の節約は“契約前”が勝負
家賃交渉:保証金減額・フリーレント(家賃無料期間)など開業前が交渉チャンス
厨房機器は新品ではなく中古を検討(リースやレンタルも候補)
初期仕入や備品は買いすぎず、“最低限”から始める
③ 売上入金を早める工夫
現金払い比率を高める:テイクアウトやランチなど即日現金化できる業態の導入
決済サービス選定:入金サイクルの早いサービス(例:Square、Airペイ即時入金など)を活用
立ち上がりは「前払い型」の商品設計(プリペイドカード、回数券など)を検討
④ 支払を遅らせる/平準化する
食材・備品業者と「月末締め翌月払い」で交渉(最初が肝心)
人件費の支払いタイミングを調整(例:翌月10日払い)
事業用クレジットカードを活用して支払いを1か月後ろ倒しに
⑤ 資金繰り表を月次で管理・見直す
キャッシュの「出入り」と「残高」を毎月把握
赤字でも“いつまで持つか”を見える化すれば、冷静な対応が取れる
月ごとの傾向(閑散期・繁忙期)を分析して、売上依存のリスクを抑える
資金繰りの鉄則は「早く入れて、遅く払う」。 それを合法・健全な範囲でどれだけ徹底できるかが、開業直後の生死を分けます。
5. まとめ|資金繰りこそ「命綱」。利益と現金は別物
黒字の収支計画があっても、資金繰りが破綻すれば事業は継続できません
特に飲食業では、投資のタイミングと売上入金タイミングのズレが大きいため、慎重な資金計画が必須です
資金繰り表を収支計画とセットで作成し、「常に現金が残っている状態」を維持する意識が経営には求められます
「利益が出ていても、現金が尽きれば倒産する」 ——この現実を理解し、事前に備えることが、スモールビジネス成功のカギです。
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